GivingTreeの雑記帳 [はてな版]

seeking for my another sky─それは、この世界そのものだと気付いた

非核:(中)日本人は、核廃絶を推進する「道義的権威」を持つ

64回目の「原爆の日」、2020年までの核兵器廃絶を訴え(AFP)
広島平和祈念式典は欧米のメディアでも大きく取り上げられた。だが長崎平和祈念式典は広島の塗り直しとでもいうようにほとんどカバーされることなく、このAFPでも長崎式典に焦点を当てた記事は掲載されなかった。


続・アメリカが主導する「核のない世界」のビジョン~主導から体現へ~(中)

前出のソレンセン元大統領特別顧問は、ケネディが同年の6月にアメリカン大学の卒業式典で行った次の演説(原文)を挙げ、最高のケネディ演説の1つと称える。

But surely the acquisition of such idle stockpiles - which can only destroy and never create - is not the only, much less than most efficient, means of assuring peace.
しかし、破壊はしても決して創造することのないこれら兵器の無駄な備蓄が、平和確保の唯一の方法でなく、いわんや最も有効な方法ではないことは確かである。
改訳:GivingTree(オリジナル訳:『ケネディ その栄光と悲劇』ホームページ

そして記事の最後で、オバマ大統領が「ケネディの夢」に到達するのは並大抵のことではなく、取り組むべき難題が数多くあると指摘しつつ、同時に、核兵器の廃絶は、もはや外交や軍事、安全保障、政治等に限られた問題ではなく、道義的な問題、すなわち『道義的な責務』(moral imperative)なのだと結論づける。

But the worldwide abolition of nuclear weapons is not only a diplomatic issue, although it will require masterful diplomacy; not only a military security issue, although we must keep our conventional weapons ready; and not only a political issue (although the nay-sayers will try to make political hay out of it). It is a moral issue -- indeed, a moral imperative.

核廃絶を推進する『道義的権威』を持つ日本人

国連のミゲル・デスコト(Miguel DEscoto)総会議長は、6日の広島原爆平和祈念式典に続き、9日の長崎原爆平和祈念式典にも招待され演説を行った。9日の演説内容はまだ公開されていないが、広島での演説原稿は公開され、国内の国連広報センターにより訳出されている。実際、広島と長崎で読み上げられた原稿には大きな違いはない(同文の可能性すらある)。

この原稿の中でも際だったある表現が、オバマ大統領の「moral responsibility」という言葉と、ソレンセン氏の「moral imperative」という言葉と響き合い、更なる重みを帯びて感じた。

デスコト議長の演説の抜粋(於・広島)
Taking into account that Japan is the only country in the world that has experienced the atrocity of nuclear bombardment, and that furthermore, Japan has given the world a magnificent example of forgiveness and reconciliation, I believe that Japan is the country with the most moral authority to convene the nuclear powers to this emblematic City of Peace, holy Hiroshima, and begin in earnest the process to lead our world back to sanity by starting the way to Zero Tolerance of nuclear weapons in the world.
日本が核兵器による攻撃という残虐行為を経験した世界で唯一の国であり、更に日本が許しと和解の素晴らしい模範を世界に示してきたことに鑑みれば、私は日本こそが、最大限の道義的権威を持って、核保有国をこの象徴的な平和都市である聖なる広島に招き、世界に核兵器を一切許さない「ゼロ・トレランス」への道を進み始めることにより、我々の世界が正気を取り戻すプロセスに真剣に着手することのできる国であると信じます。
出典:国連広報センター
デスコト議長の演説の抜粋(於・長崎 ※2009.08.11追記)
I join the Mayors of Hiroshima and Nagasaki and their many collaborators across the world in endorsing their call for achieving a nuclear-free world by 2020, a date that coincides with the 75th anniversary of the 1945 bombings. Japan and the Mayors of Hiroshima and Nagasaki have the moral authority to demand this of the nuclear powers.
私は広島市長、長崎市長そして世界中の多くの協力者とともに、1945年の原爆投下から75年目を迎える2020年までに、核兵器のない世界を実現するという呼びかけを支持します。日本と広島市長、長崎市長は、核保有国にこれを求める道義的な権威を持っています。
出典:外務省仮訳

日本の被爆者および核廃絶を願う人々は、オバマ大統領のプラハ演説を聴いて、初めて唯一の核使用国の首班が核を使用したことの『道義的責任』を表明したことに歓喜した。そして、この演説に鼓舞され、核廃絶実現の決意を新たにした。

では、日本の「人々」は何をしたのか。

政府レベルでは、オバマ演説の直後の4月、中曽根外務大臣が演説『ゼロへの条件―世界的核軍縮のための「11の指標」』を発表。日本政府として、オバマ演説に対する強い支持を表明するとともに、2010には核軍縮・不拡散に関する国際会議を開く意向を表明した。また麻生首相は、広島と長崎の両演説(実は内容にあまり相違はない)で、核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずを原則とする非核三原則の堅持について次のように誓言した。

そして、本日、私は、改めて日本が、今後も非核三原則を堅持し、核兵器の廃絶と恒久平和の実現に向け、国際社会の先頭に立っていくことを、改めてお誓い申し上げます。
首相官邸広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式あいさつ
首相官邸長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典あいさつ

自治体レベルでは、被爆地広島と長崎の首長がオバマ演説を即座に支持。6日と9日の平和祈念式典でも、それぞれオバマ演説に触れ、核兵器が「廃絶されることにしか意味のないもの」になったという認識を国内外にアピールした。また134か国・地域3,047都市が集まる平和市長会議(Mayors for Peace)の先導となり、2020年までの廃絶を目指すロードマップを定める「ヒロシマナガサキ議定書」をNPT(核不拡散条約)で採択させることを目標としている。

民間レベルではこの動きと並行し、川口順子元外相とガレス・エヴァンズ元豪外相が共同議長を務める日豪合同イニシアティブである「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(ICCND)※を支える国内NGOのネットワークICCND・日本NGO市民連絡会が活動を活発化させており、国内NGOの国際窓口となって世界各国のNGOや国際有識者団体と連携を深めている。

※メモ:
ICCNDは、2008年7月の日豪首脳会談において、日豪共同イニシアティブとして立ち上げることが合意され、共同議長として川口元外相とエヴァンズ元豪外相が任命されて2008年10月に発足した。2010年NPT運用検討会議を成功させるため、「核兵器のない世界」に向けた中長期的な視点からの提言を取りまとめた報告書を発表することを主な目的としている。ICCNDは、2009年2月のワシントン会合(第2回目)、同6月のモスクワ会合(第3回目)、同10月の広島会合(第4回目)と、計4回の会合を経て、2010年NPT運用検討会議に先駆けて2010年1月に報告書をとりまとめることになっている。
(参考)
外務省『「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」第1回会合開催について』(2008年10月17日)
ICCND・日本NGO市民連絡会『ICNNDとは? About ICNND』

このICCND・日本NGO市民連絡会が最近、日本政府の中の不穏な動きを伝えている。

(「下」に続く・・・)