GivingTreeの雑記帳 [はてな版]

seeking for my another sky─それは、この世界そのものだと気付いた

倫理:ネット上の意見を世論と見做す視野狭窄(07.05更新)

デフォルメ世論に翻弄されるメディアの視野狭窄

日本のネット人口はつい数年前、全体の50%以上に当たる6千万人を越えたといわれる。その6千万のうち掲示板などで積極的に意見発信を行うユーザーは更にその数%に留まる。急増したアクティブなブログユーザー数も、この数%(2005年度の予測で2007年度総計が全体の6.5%)の枠内に留まる。つまり韓国に次いでネット普及率が高いとされる日本でも、ネットで積極的に意見を発信しているユーザーの数はネット人口の5%に満たないと考えてよい。なぜなら、仮に2008年現在でアクティブなブログユーザーが全体の5%に迫っていたとしても、そのうち日記や娯楽投稿だけでなく「世論」の一部となるような明確な“声”を発しているユーザーはさらに少数であると考えられるからだ。(※)
この、全人口の5%に満たない声が、最近では「ネット上の世論」という、いわば「デファクト世論」(どちらかといえば「デフォルメ世論」なのだが)として捉えられるようになってきた。
※データ補足(2005年度総務省調べ
2005年3月末時点の国内ブログ利用者(自分のブログを開設しているインターネット
ユーザ)は延べ約335万人(複数のブログサービスへの掛け持ちを考慮すると、純
ブログ利用者数は約165万人)。アクティブブログ利用者(ブログ利用者のうち、少なく
とも月に1度はブログを更新しているユーザ)は約95万人

2007年3月末にブログ利用者数は延べ約782万人、アクティブブログ利用者数は
約296万人に達すると予測

メディアはこぞって、この“5%未満”の「ネット世論」を引用して「こうした意見が多い」と紹介する。ここで彼等は「世論」という言葉は敢えて使わないが、その紹介の仕方から世論であるかのように思わせようとしていることがわかる。なぜなら、一つの事象について、限られた一部の考えのみを「多い」と報じれば、とかく報道を鵜呑みにしてしまう傾向の人からすればそれが“唯一絶対の世論”に思えてしまう。こうした偏向の謗りを免れようと、メディアは趣向を凝らす。「一方で、こういった意見もあります」という、消極的に少数派意見を紹介する手法がこれだ。申し訳程度に、そのメディアが独自に考える基準で、多数派でない意見を公平を期すかのように多数派意見の引き合いに出す。実に報道としては意味のない行為である。がしかし、視聴者はこのまやかしのトリックにいとも簡単に引っ掛かる。俗に言う世論操作であるが、おそらく当のメディア側はその自覚すらない。そこに問題の核心がある。悪意のない悪行ほど始末に負えないものはないからだ。

「ちょっと待て。メディアが、これが一般世論であると思わせることを意図して偏向報道を行うなら、その自覚があるということではないのか」

当然、こうした疑問が湧き上がる。悪行を行っている自覚というものは、自らの行為が悪行であるという認識があって初めて成立する。ではその認識がなかったら?または問題意識がなかったら?要はそういうことである。

昨今のメディアが行う「世論操作」ともとれる行為は、実は何の計算も見込みもなく行われている、非常にイノセントかつ極めて無責任な行為なのである。問題はメディア自身がいかに己の無責任さを自覚していないことにある。つまりはメディア自身が視野狭窄に陥っていることに原因の一端がある。

2008.07.05 追記
─と、4月時点では考えていたのだが、ずっと待ち焦がれていた最新の総務省統計が出たので前出の2005年当時の予測と比べてみたら、結論が当時と変わった。
データ補足(2007年度総務省調べ
2008年1月時点の国内ブログ利用者(自分のブログを開設しているインターネット
ユーザ)は延べ約1690万人。アクティブブログ利用者(ブログ利用者のうち、少なく
とも月に1度はブログを更新しているユーザ)は約300万人
出典:国内ブログ総数は1690万、8割以上は更新されず(ITメディア・ニュース)

米Technocrati社総務省の調査によると、日本のブログ利用者数は世界一の規模(全体の37%)を誇るらしいが、一方で国内ニフティ社などの調べによるとその4割がスパムらしい。さらに総務省の分析によれば、 アクティブブログのうち12%がスパムブログだという。これらの数値を最新の統計に盛り込んで検討してみよう。

年度ブログ利用者増減アクティブ利用者増減アクティブ利用者比率増減
2005年335万人-95万人-約28% -
2008年1690万人+1355万300万人+205万約18%-11

デフォルメ世論を利用する確信犯

この統計からわかるのは、2005年3月末から2008年1月末までの約3年強の間に全体のブログ利用者が1355万人も増えたのに対し、アクティブ利用者は全体の約28%を占めていたものが約17%へと11ポイント減っていることだ。そしてこの約17%のうちさらに約12%がスパムだということ。2008年1月現在で、純然たるアクティブブログは300万からその12%を差し引いた数値、すなわち264万となる。この264万が最新のネット人口(インターネット利用者数)の8,811万に占める割合が、真のネット世論を現す数字となる。すなわち、全体の約3%である。冒頭では2005年度の予測で全体の6.5%に達するだろうと見られていたが、実際は過去3年のうちに3%強にしか増えなかったのである。

つまりメディアは、少なくとも過去3年の間横ばいでいたアクティブブログ、全体の5%も占めない“ネット世論”を多数や少数意見を紹介するために引用してきたことになる。たった3%強の意見をである。こうしたネット統計は、政府から報道発表資料として公開されているので、当然メディアはブログの持つ「ネット世論」としての有効性が限られたものであることは承知していることになる。そうなると、メディアの視野狭窄と疑われていたものが、実は確信犯的なものだったという結論に行き着く。もはやこうなると倫理の問題である(ゆえに「倫理」分類にしたのだが)。さらに、自らの脚を使わずにたかだか3%強のネット世論に依存するメディアの怠慢の問題でもある。これからメディアがネット上の世論(デフォルメ世論)を引用する場面に遭遇したときには、これらの事実を気に留めておく必要がありそうだ。

(了)