GivingTreeの雑記帳 [はてな版]

seeking for my another sky─それは、この世界そのものだと気付いた

非核:(下)日本人は、核廃絶を推進する「道義的権威」を持つ

カラチで米原爆投下への抗議デモ、広島原爆の日(AFP)
カラチでのデモは、原爆投下という人類の悲劇が政治的プロパガンダに利用される典型例といえる。こういったプロパガンダが、原爆投下という蛮行への純粋な抗議を政治闘争の道具へと引き下げる。


続・アメリカが主導する「核のない世界」のビジョン~主導から体現へ~(下)

オバマ演説に鼓舞され、我々日本人は官民一体となって、核廃絶への揺るぎない決意を新たに具体的に動き出したかにみえる。しかし「真の敵は身内にあり」という。

核廃絶の論理的帰結を懸念する日本政府

前述のICCND・日本NGO市民連絡会は最近の報告で、日本政府内に核廃絶推進に逆行する不穏な動きがあることを伝えている。それを端的に示すのが、この憂慮する科学者連盟(UCS)の中国専門家で上級アナリストであるグレゴリー・カラキー(Gregory Kulacki )氏によるビデオだ。「北東アジア非核化地帯」条約構想を提唱して世界に注目された日本の軍縮NPO「ピースデポ」がまとめた。

カラキー氏は、日本の政策関係者やNGOとの会合のために今年7月に来日した際に、日本の市民に対して次のビデオメッセージを残していったという。その主旨は、アメリカのオバマ大統領が核軍縮のための政策転換をしようとしているときに、日本の外務省や防衛省の官僚たちが、核政策を変えないでくれと抵抗している。このような日本政府の『懸念』が、アメリカの核政策転換の最大の障害になっている。アメリカの核政策の見直しは、今年の9月または10月に方向性が決まる。日本の人たちは、この問題に気づき、声を上げてほしい」というものだった。


この懸念が事実であることを裏付ける情報もある。

ICCND本体のNGOアドバイザーの川崎哲氏(NGOピースボート代表)が自身のブログで、外務省主催の座談会『軍縮と安全保障のはざまで』に参加した模様を報告している。核の先制不使用をめぐる政府関係者や専門家の最新の見解がここから読み解ける。
(参考)川崎哲ブログ『外交フォーラム』8月号、「日本と核抑止力」をめぐるホットな論争

またこの懸念が官僚固有のものではなく政府として共有するものだということが、過去の外務相・大臣の答弁からも窺える。核の先制不使用をめぐる政策は、小泉政権以前からの国策であったのである。

「いまだに核などの大量破壊兵器を含む多大な軍事力が存在している現実の国際社会では、当事国の意図に関して何ら検証の方途のない先制不使用の考え方に依存して、我が国の安全保障に十全を期することは困難であると考えているわけでございます。」(高村外務大臣 1999年8月6日衆議院外務委員会)
「先制不使用を約束してしまった場合、核の抑止力の効果がかなり薄れてしまう。日本の安全を守れるのだろうかという懸念を強く持っている。……米国と日本が先制不使用を約束したとしても、ほかの国が本当に先制不使用を守ってくれるのだろうかという問題がある。」(森野泰成軍備管理・軍縮課首席事務官(当時:現課長) 1998年8月5日広島で(2009年3月4日、民主党軍縮促進議員連盟の会合でも同趣旨の発言。))

これはメディアなどの関心事項でもあり、北朝鮮の核ミサイルなどの現実的脅威が存在する手前、「原爆の日」の社説で一様に核廃絶の推進を訴える一方で、政府の懸念を「当然のもの」として受け止める論調が目立つ。
(各社社説)日経新聞 読売新聞 朝日新聞 毎日新聞

日本人は『道義的権威』を発揚せよ

日本のオバマジョリティー核兵器廃絶を願う世界の多数派を示す言葉で、広島市が提唱)は、核廃絶を目指すその論理的帰結として、非核三原則の堅持と、核の先制不使用を謳っている。日本の『オバマジョリティー』にとってこれは、非核三原則を法制化し、米国に核先制不使用を確約させることを意味する。だがこれらの目標はいずれも、北朝鮮の脅威や中国の急激な軍拡など、日本が現実に直面するとされる安全保障上のリスクによって形骸化の危機にあるのが現状である。

オバマジョリティー』は確実に世界の流れを変える力を持ちつつある。しかし、核持ち込みの密約を堅持し、武器輸出三原則ならびに非核三原則の見直しを謳い、裏では米国の核政策の転換に反対する官僚を抱えるの日本の現状を、根底から変えなくてはならない。

オバマ大統領率いる米国政府は、プラハ声明の発表後わずか3カ月の間に、少なくとも次のことを実行した。

(1)13カ国が参加する拡大G8サミットの首脳宣言に「核のない世界」を目指す文言を入れた。
(2)ロシアと新たに戦略核の削減交渉を進め、基本合意の調印を完了した。
(3)来年3月に核保有国を集めた核サミットを開催することを決定した。
外務省仮訳『不拡散に関するラクイラ声明』(2pg、パラ6)

麻生首相率いる日本政府は、オバマ大統領の演説を称賛し支持する例の『11の指標』を発表し、NPT体制を強化する日豪合同非核イニシアティブである「ICCND」を推進する一方で、次の動きを見せた。
(1)米政府のカウンターパートに核政策の転換阻止を求めた。
(2)核持ち込み密約についてその真偽を認めなかった(政府元閣僚は国会招致を固辞)。
(3)与党内で非核三原則の緩和を求める声が相次いだ。
中曽根外務大臣政策演説『「ゼロへの条件―世界的核軍縮のための「11の指標」』
外務省『「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」第1回会合開催について』

まさに「真の敵は身内にあり」の体現である。

ケネディの非核思想の系譜を引き継ぐオバマ大統領は、演説後わずか数カ月で、自らが謳った「道義的責任」を果たす行動を政策として実行に移し、体現せしめた。前出のソレンセン氏によれば、実はオバマ核廃絶の目標は十数年前、オバマが学生だった時代から変わっていないという。大学生だったオバマは、エッセイに核廃絶への熱き思いを綴り具体的な構想を展開した。

Decades earlier, Obama had specified this same goal in a college student essay. He was not talking at Prague, nor was Kennedy at American University, about unilateral U.S. nuclear disarmament, but about an enforceable global nuclear pact, covering Russia as well as China, Israel as well as Iran, both India and Pakistan, and all other present and potential nuclear powers. 

国連総会議長に『道義的権威』があると判を押された全ての日本人の代弁者たる日本政府は、『11の指標』でオバマ演説を称える一方で、その行動は言動に完全に相反した。そしてその行動(政策)は、小泉政権以前から脈々と受け継がれてきたものだった。

日本の『オバマジョリティー』はこの行動を覆すべく、『道義的権威』を発揚しなければならない。日本人の悲願である「核のない世界」実現の障壁となっている政府に、(1)核持ち込み密約を認めさせ、(2)非核三原則を改めて法制化し、(3)核の先制不使用を米国に確約させるとともに、(4)より大きな枠組みで北東アジア地域の非核化に取り組まなければならない。そのための材料は揃い始めている。キューバ危機の時代の大統領特別顧問が、核兵器の廃絶を『道義的な責務』と断言する時代である。日本人が悲願とする核廃絶は世界に認められる権威を持つ思想となった。日本人は今こそ、唯一の被爆国の国民である自覚と責任を持って、その権威を発揚すべきである。

(了)