GivingTreeの雑記帳 [はてな版]

seeking for my another sky─それは、この世界そのものだと気付いた

非核:(上)安保理首脳会合決議、非核兵器地帯普及の呼び水となるか

史上初の核問題に特化した安保理首脳会合で「核のない世界」を目指す決議が全会一致で採択された。



日本が核廃絶を訴える歴史的な好機となった会合

2009年9月24日、国連安保理は歴史的な場で核軍縮・核不拡散に向けた決意を成文化した。途中退席したリビアを除く14カ国の首脳全てが、オバマ米大統領プラハで掲げた「核のない世界」構想を支持したのである。

この14カ国の中に、日本の鳩山新総理の姿もあった。就任後わずか1週間での安保理デビューだ。
鳩山総理は会合冒頭の演説の中で、非核三原則の堅持をあらためて世界に約束した。

なぜ日本は、核兵器開発の潜在能力があるにもかかわらず、非核の道を歩んできたのでしょうか。日本は核兵器による攻撃を受けた唯一の国家であります。しかし、我々は核軍拡の連鎖を断ち切る道を選びました。それこそが、唯一の被爆国として我が国が果たすべき道義的な責任だと信じたからであります。近隣の国家が核開発を進めるたびに、「日本の核保有」を疑う声が出ると言います。だがそれは、被爆国としての責任を果たすため、核を持たないのだという我々の強い意志を知らないが故の話です。私は今日、日本が非核三原則を堅持することを改めて誓います。

その上で、核兵器なき世界」への共鳴と題して、日本政府として世界に求める行動として、保有国による核軍縮の推進CTBTの早期発効を訴え、さらに日本政府独自のイニシアティブとして、軍縮・不拡散外交の積極推進北朝鮮やイランに対する核不拡散政策の徹底等を列挙した。

 第一に、核保有国に対して核軍縮を求めます。透明性の確保と情報の開示が進めば、信頼醸成が可能となり、更なる核軍縮への好循環を生みます。非核兵器地帯の創設は、P5と地域の非核兵器国との連携の下で進めることができれば、決議にあるように、核軍縮と拡散防止、ひいては世界と地域の平和と安定という目的に資するものとなり得ます。
 第二に、CTBTの早期発効、カットオフ条約(兵器用核分裂物質生産禁止条約)の早期交渉開始を強く訴えたいと思います。1954年3月1日、南太平洋ビキニ環礁における水爆実験で日本の第5福竜丸が被爆したことを私は思い起こします。カットオフ条約によって「持てる国」の核兵器生産能力を凍結することは、核軍縮・不拡散の双方に貢献することになり、また、NPT体制をより平等なものにするためにも不可欠な措置であります。我々に浪費すべき時はありません。
 第三に、日本自身が核軍縮・不拡散を主導する積極的な外交を展開します。例えば、国連総会における核軍縮決議の提案、日豪による川口・エバンス国際委員会(核不拡散・核軍縮に関する国際委員会)の活動支援、IAEAの技術・専門性及び資源を強化するための取組を進めます。エルバラダイ事務局長の果たしてきた役割に敬意を表し、天野次期事務局長の果たす役割にも期待し、サポートしていきたいと考えます。
 第四に、新たな核拡散の動きに対し、積極的に対応します。北朝鮮による核開発は我が国を含めた国際の平和と安全に対する脅威であり、断固として認めるわけにはいきません。国連安保理決議第1874号の実効性を高めるため、更に必要な措置をとっていきます。イランの核問題に対しても懸念しております。核不拡散に果たす国連安全保障理事会の役割は今後ますます高まっており、その強化を求めます。来年開催される核セキュリティ・サミットにも貢献したいと考えています。
 第五に、今日採択された安保理決議にもあるように、原子力の平和利用にあたっては、拡散のリスクを低減し、保障措置・核セキュリティ・原子力安全の各項目について最高レベルの水準を遵守することが必要であります。

オバマ大統領に趣旨説明に続いたこの演説は、まさに世界の指導者らが政策レベルで本格的な核軍縮を目指し、そのために核不拡散レジームの強化を実現する堅い決意を表す歴史的なものとなった。これまでも日本は、国連総会で核廃絶決議を提出しこれを賛成多数で可決してきたが、安保理において核廃絶に向けたマキシマムな意味を持つ決議が全会一致で採択されたことはなく、またその現場に当事者として立ち会うことはなかった。今年4月のプラハ演説に続くオバマ大統領のイニシアティブは、政権交代間もない日本に核廃絶を声高に訴える歴史的好機をもたらしたのである。

そもそも今回の首脳級会合の召集と決議の採択は、議長国アメリカのオバマ大統領による安保理への提案が発端となっており、3ヵ月にわたる入念な準備作業の末実現したものだった。この周到に準備された歴史的イベントに、政権奪取後の鳩山総理が首脳として参加し核廃絶に向けた声明を読み上げることになる等と、つい数か月前には誰も想像し得なかったことだった。もし優秀な政治家には幸運がつきまとうのであるすれば、鳩山総理ほどそれに恵まれた近代の日本の首相はいなかっただろう。

非核地帯を奨励する決議がもたらすもう一つの好機

演説の後に採択された決議1887号は、この5つのポイントを網羅した12項目にわたって核軍縮・不拡散に関する行動を規定。国際社会に対しオバマ大統領の「核のない世界へ」の呼びかけに応じ具体的な行動を起こすよう要請した。この12項目の中に、安保理として初めて、非核地帯構想への支持と歓迎が表明された。

Welcoming and supporting the steps taken to conclude nuclear-weapon-free zone treaties and reaffirming the conviction that the establishment of internationally recognized nuclear-weapon-free zones on the basis of arrangements freely arrived at among the States of the region concerned, and in accordance with the 1999 United Nations Disarmament Commission guidelines, enhances global and regional peace and security, strengthens the nuclear non-proliferation regime, and contributes toward realizing the objectives of nuclear disarmament
核兵器地帯条約の締結に向けた取り組みを支持および歓迎し、各地域の当事国らの自由協議に基き、また1999年の国連軍縮委員会のガイドラインに則って確立される、国際的に認知された非核兵器地帯は、地球規模ならびに地域の平和と安全を向上させ、核不拡散体制を強化し、核軍縮の目的実現に資するものであるという確信について再確認する。
出典米国務省『U.N. Security Council Resolution 1887』(抄訳:GivingTree)

鳩山総理はこの席で、いまや党是となり国是となりつつある東北アジア非核化地帯条約について言及することはなかったが、これは北朝鮮やイランの核開発問題情勢の推移を見ての政治的判断だったと思われる。いくら安保理決議の前文で非核地帯が歓迎・支持されたとはいえ、構想段階の条約案について安保理の首脳会合の席上で発表するのはさすがに冒険だ。だが、機会はまた近いうちに巡ってくる。

(下)へ続く・・・