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脱原発:オバマ米大統領の演説、新たな気候変動対策で自然エネ推進を強調か 原子力業界は反発を露わに(OBN)

実際のオバマ大統領の演説 - ホワイトハウス演説原稿
公開された実際の行動計画書 + 視覚資料

自然エネルギー推進に舵を切ったかに見えるオバマ政権

25日、アメリカのオバマ大統領は気候変動対策に係わる行動計画(The President's Climate Action Plan)に関する声明を発表した。その中でオバマ大統領は、産業界の中でも、米自動車業界手のゼネラルモーターズGM)やスポーツ業界大手のナイキが“気候変動対策は21世紀最大の経済的機会の一つである(one of the great economic opportunities of the 21st century)とする『気候変動宣言("Climate Declaration")』を謳っており、米最大の量販店チェーンであるウォルマート自然エネルギーへの完全な転換("transition completely")を図っていることなどから、気候変動対策として自然エネルギーへの転換が「十分ビジネスになることの証だ」と、再生エネルギー産業の潜在的経済性に対する従来の否定的な見方を覆した。

And, by the way, don't take my word for it -- recently, more than 500 businesses, including giants like GM and Nike, issued a Climate Declaration, calling action on climate change “one of the great economic opportunities of the 21st century.”  Walmart is working to cut its carbon pollution by 20 percent and transition completely to renewable energy.  Walmart deserves a cheer for that.  But think about it.  Would the biggest company, the biggest retailer in America -- would they really do that if it weren't good for their business,  if it weren't good for their shareholders? 

またジェイ・カーネイ(Jay Carney)大統領報道官は同日、次のように連投でツイートしアメリカがオバマ大統領の下、風力や太陽光などの自然エネルギー(“クリーン・エネルギー”ではなく)への転換を進めたことをアピールした。

(要約)「オバマ大統領の下、風力や太陽光などの自然エネルギーによる発電量が倍増し、石油輸入量を過去20年で最低の水準にまで減少した。まだ努力の余地はあるが、2012年の米国のCO2排出量は過去20年で最低の水準に減少した。」(ツイート1ツイート2ツイート3

一方で、声明の中で大統領は現実的課題として、(石油燃料を大量に使う)原子力から一足飛びに移行はできないことを明示。自然エネルギー経済への転換は時間がかかる(transitioning to a clean energy economy takes time)」と明言し、産業と政府が一体となって自然エネルギーへの転換を進めたとしても、すぐに実現できることではないことを示した。

Now, one thing I want to make sure everybody understands -- this does not mean that we're going to suddenly stop producing fossil fuels.  Our economy wouldn't run very well if it did.  And transitioning to a clean energy economy takes time.

米原子力業界が即時に反発

米原子力業界の重鎮である原子力エネルギー協会(NEI)は、即日で会長声明を発表してこの発表内容に反応した。その声明の中で、NEIのマーヴィン・フェルテル会長(Marvin Fertel)は、次のように釘を刺した。(参考

When it comes to reducing the U.S. electric sector’s greenhouse gas emissions, efforts can succeed only if carbon-free nuclear energy plays a larger role in the nation’s electricity mix. That’s not simply the opinion of our industry.

アメリカの電力セクターの温室効果ガス排出量を削減するということであれば、その削減に成功するには、カーボン・フリーな原子力が国家のエネルギー・ミックスの中でより大きな役割を占めなければならない。これは業界のみの意見ではない。

さらに、オバマ大統領が再選時のときに行った発言で触れ、オバマ大統領が当初は原子力の必要性について理解を示していたことを強調した。事実上の業界の圧力発言と受け止めてよいだろう。

“There is no debating this fact: Nuclear energy produces nearly two-thirds of America’s carbon-free electricity. As a nation, we cannot reach our energy and climate goals without the reliable, carbon-free electricity that nuclear power plants generate to power our homes, businesses and infrastructure.

原子力アメリカのカーボン・フリーな電力の3分の2に匹敵する電力を生産している。この事実に異論の余地はない。国家として、原子力発電所が家庭や企業、そしてインフラに供給する安定したカーボン・フリーな電力なしでは、エネルギーや気候変動対策の目標を達成することはできない。

“President Obama recognized this during the presidential campaign when he said, ‘It is unlikely we can meet our aggressive climate goals if we eliminate nuclear power as an option.’ Likewise, Energy Secretary Ernest Moniz supports the expansion of nuclear energy to meet national energy and environmental imperatives.

原子力を選択肢から省いてしまったら、気候変動に関する我々の野心的な目標を達成することは難しくなるだろう。」オバマ大統領は再選キャンペーン中にこのように述べ、その認識を示した。同様に、アーネスト・モニッツエネルギー省長官も、国家のエネルギー及び環境目標を達成するに当たっての原子力利用の拡大を支持している。

Nuclear energy must continue to be a major part of the nation’s energy portfolio if we wish to effectively reduce carbon emissions to protect the environment, and to expand our supply of reliable, affordable electricity. We look forward to working with the administration to help achieve these extremely important goals.”

CO2排出量を減らして環境を保護し、安定かつ安価な電力の供給を拡大するには、原子力は国家のエネルギー・ポートフォリオの主要な部分を構成し続けなければならない。これらの重要な目標を達成するために、政府と共に取り組んでいくことを我々は望んでいる。

演説内容の評価

大統領の実際の行動計画の詳細は計画書に示されており、その内容は演説の内容とはだいぶ異なる。一部の指摘によると、演説の前日に発表された計画書の中には小規模モジュラー原子炉(SMR)に対する投資計画への言及もあり、具体的な計画内容としては自然エネルギー推進とはいえないのではないか、という指摘もある。また、国際反核連合(CAN)のグループの中でも、「これは原子力や、“クリーンな石炭”、そしてフラッキング法に依存する政策の表明に過ぎない。(President's Climate change policy again depends on nukes, "clean" coal, and fracking. )という批判の声が大きく挙がっている。英紙ガーディアンも同様の見方だ。演説の内容とは事なり、計画書では風力や太陽光に対する言及は殆どないという。

だが、少なくとも演説の内容に対し、業界側(NEI)は即日で反発し、政権側に釘を刺したように見える。最後の部分など、ほとんど断末魔のように必死で原子力政策の維持・拡大を訴えているように思えるのは気のせいだろうか。このような「反発」を業界から呼ぶオバマ大統領の演説は、それなりに業界に危機感を持たせる内容だったのだろう。この演説内容と実際の計画書の内容の乖離については、また別の議論になるだろう。


巻末資料:行動計画書における原子力政策への言及部分(p.19)
※文字数制限により原文記載できず。

原子力:合衆国は、二国間あるいは多国間の取り組みにより、安全かつ確実な原子力利用を世界規模で推進し続ける。例えば、原子力規制委員会(NRC)は各国のパートナーに対し、安全及び規制基準に関するベストプラクティスを助言し、エネルギー省は原子力の研究開発、廃棄物処分及び保管、訓練、規則、品質管理、そして包括的な燃料リース・オプションに関して各国パートナーと協力する。将来に向けて、合衆国は安全性と不拡散に関する目標を最大限に実現しつつ原子力発電を推進すべく、これらの取り組みを拡大していく。」

(参考図書)
『外国の立法』 249(2011.9),国立国会図書館調査及び立法考査局
『米国環境産業動向』日本産業機械工業会JSIM(2013年5月)



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