GivingTreeの雑記帳 [はてな版]

seeking for my another sky─それは、この世界そのものだと気付いた

改憲:憲法を知らない大人たち

党内70%以上の支持(読売)を得て首班指名が確実となった次期首相候補の安倍官房長官が、5年内の改憲を目指す(毎日)と表明した。安倍氏の考えが表明される以前から、日本ではイラク派遣の是非が問われている時期から、改憲に関する論議が盛んになってきていた。国民の間で改憲意識は徐々に高まってゆき、いまでは6割強が各種世論調査改憲「YES」に傾いている情勢にある。最大の関心事の9条の改正については未だ調査では過半数のYESは得られていないが、改憲そのものについては国民の半数以上「YES」であるというすう勢になってきたのである。しかし、ここに来て、5年という具体的なリミットが設けられて初めてハタと疑問に思ったことがある。

国民(大人)はどれほど現行憲法を知っているんだろうか?


一部の人たちは、現行憲法を教育の現場で教えるべきだと説く。そうすれば子どもの頃から憲法に対する正しい理解が得られるから、という理由らしい。だが子どもがこれから成人するまで少なくとも10年以上かかる。いまから現行憲法を教えていて、間に合うのだろうか。いや、それ以前に、その子どもの親たちや周囲の大人たちは、学校での教育を補完して子どもに教えられるくらいに現行憲法を知っているのだろうか?


憲法全文朗読の試み

1年ほど前だろうか、俺はヤフーのチャットであることを試みてみた。最近では当たり前になったボイス機能を生かして、自民党の当時最新の「新憲法草案」を、任意の参加者で順番に声に出して読んでみるという試みだ。掲示板などで参加者を募ってみたところ、護憲派とされる人たちや改憲派(俺は改憲派)から数人だけ有志が集まってくれた。そこで新憲法草案を読んでみたら、これが実に短時間で終わってしまった。そこで物足りないので、現行憲法も読み上げてみることにした。これも短時間で終わった。あっという間だった。

さて、チャットに集まってくれた人のほとんどは護憲派の人たちだったのだが、驚いたことに憲法全文を読むのは初めてだという。九条はそらでも覚えてるようだが、憲法全文を実際に全文読んだことはないというのだ。呆れていたら、なんと改憲派の人も同じだった。憲法全文を読んでいる人など、ほとんどいないのだ。では、なぜ憲法を語れるのか。改憲論議が九条のみに集中しているからだ。

憲法学者や学生など、憲法を学んでいる人以外の一般の人で、憲法の内容を把握している人など、そうはいない。それは、これまでの教育で憲法を学ぶ機会がなかったからだという。それで、いまになってせめて子どもたちには憲法を知ってもらいたいと、学校での憲法教育を義務化すべきだと考えている人たちがいる。だが待てよ。それでは、大人の責任はどうなるのだ。仮に、子どもたちが憲法を学校で学ぶ機会が制度化されたとして、その子どもの親たちや関係のない大人たちは、どうやって憲法を学ぶのだ。というより、学ぶ気はあるのか?どうもなさそうに思える。

正しい知識を「伝える」義務

最近の学校教育は進んでいて、とても親の世代の知識ではついていけない内容になっている。それは確かだ。俺だって自分の子どもに数学や理科のこと聞かれても答えられないことが多いだろう。だが国の成り立ちや、発展の経緯、歴史の基本的な事実─これは、子が親から親の視点で学ぶことも多いのではないか。「正しい教育」を学校に求め、その責任を丸投げするのではなく、大人自身も「正しい知識」を身に付けそれを子どもに伝える義務があるのではないのか。どうも、なんでも教育=制度のせいにする人というのは、こうした部分で責任転嫁しているように思える。

故・相田みつを氏の言葉でこんな言葉がある。

                  一生勉強

実に単純明快であるが、つまりは親の世代になったからといって「学ぶ」ことを止めていいというわけではなく、常に知識を磨き、精神を鍛え、親として恥ずかしくない人間でいることの必要性を説いている言葉とも言える。大人だからといって、子どもにどんどん知識で追い抜かれていってそれで安穏としていていいわけではない。どこかで、大人の威厳を示す必要があるし、子どもたちもまたそれを求めている。そしてその威厳は確かな知識に裏打ちされていなければ、子どもは間違った考えを持つようになる。

まずは憲法の朗読から

現行憲法は、ものの数十分で完読できる。憲法の改正を懸念したり、いまの憲法を子どもたちに知ってもらいたいと思う親たちや周囲の大人は、その責任を学校に押し付けるのではなく、まず自らが与えられたネットという自由に使えるリソースを活用して、正しい知識を学び、それを子どもに伝えるという努力をしてみるのが必要なのではないだろうか。まずは自分たちで朗読してみるのもいい。子どもたちと一緒にインターネットの憲法ホームページを開いて読んでみるのもいい。いくらでもある。

学校で教えられていない、教えないことだからこそ、親の出番なのだ。本当に日本を、憲法を子どもたちに知ってもらいたいのならば、まず自分がその知識を詰め込んで消化して、子どもたちに伝えられるだけの考えを持つべきではないだろうか。それが、大人の責任であると思う。

(了)