GivingTreeの雑記帳 [はてな版]

seeking for my another sky─それは、この世界そのものだと気付いた

平和:脳科学者が自身で体験した「平和脳」の世界を書き起こす




友人を通じて、上のビデオ(英語)を紹介するBLOG記事の存在を知った。脳科学者(正確には神経解剖学の専門家)であるジル・ボルト・テイラーJill Bolte Taylor)という博士が、自身で脳卒中を経験し、そのときの体験の記憶から18分に及ぶ貴重な講演を行った、というものだ。

普通の人が脳卒中を経験したとして、それを克明に呼び起こして自分の体験としてどうであったかを話すのはとても難しい作業に思える。脳の専門家が同じ経験をしたとしても、テイラー博士のように自分の体験を語り継ぐことは必ずしもできないだろう。そういう意味で、これはまさに非常に貴重なinsight(洞察)であるといえる。テイラー博士は12年前にこの体験をし、完全に回復するまで8年を要した。その4年後の2008年2月になってやっと、彼女は自分の経験を語れるようになったのである。

さらに貴重なのは、脳科学者の目で体験した人間の右脳の働きが「自分が周囲の人々、周囲の世界とつながっていることを実感させてくれる、至福に満ちた世界」こなきじいさんのBLOGより)を見せたことだった。健常な人間は、脳梁(のうりょう:corpus callosum)を介して右脳と左脳の間を自由に行き来できるという。この脳梁の大きさは男女で生物学的差があり、それが男女差(ジェンダー差異)を生みだしているともいわれる。

テイラー博士は、感覚を司る右脳の世界を意識的に選択すれば「人類はみんな兄弟であり姉妹であり、私達みんなで1つなのだ」(同)という認識を得られるという。女性であるテイラー博士ははじめから脳梁の幅が男性より広いのだが、その幅に関係なく左脳がシャットダウンされたおかげで右脳のみで彼女が敬愛を込めて呼ぶいわゆるLa La Land(夢の世界)を堪能できたのだという。

サヴァン(Savant)症候群という言葉がある。実在の有名なサヴァンキム・ピーク(Kim Peek)という映画『レインマン』('88)のモデルにもなった人がいるのだが、この人の能力について最近日本のTV番組がとりあげたことがあった。ピーク氏がサヴァンであるのは前述の脳梁ない(欠損している)からであるとされているが、右脳と左脳の境界がまったくないため脳の機能の仕方が常人とまるで異なる。それによって、『レインマン』でも描かれたような驚異的な暗算能力や記憶能力が発揮できるのであるが、ピーク氏はテイラー博士のように自らの状況や体験を客観視してかつそれを正確に描写することはできない。

でも、仮にピーク氏がテイラー博士のようにできたらどうなるのか。まったく違う世界が開かれるのではないだろうか。サヴァンの研究を進めることで、もしかしたら人類はより平和的な生き物に進化するきっかけを得られるかもしれない。少なくとも、意識的に右脳を選択することで人はより平和的な生活を営めるかもしれないのだ。

残念なことに、このビデオは日本語には翻訳されておらず、YouTube40万件の怪物的ヒットを記録しながらも他言語ではスペイン語字幕バージョンしか配信されていない。そこで、こなきさんを始めとする有志数人で以下のスクリプトの翻訳を試みてみることになった。時間はどのくらいかかるかわからないが、昨年のNYTの「日本再武装」ビデオの翻訳コラボ以来、実に丸1年ぶりのWebコラボレーションとなる本プロジェクト。期待してもらいたい。

参考:脳卒中を体験した脳科学者からのメッセージ - こなきじいさんの「sankenbunristu」BLOGより



ジル・テイラー博士のトーク原稿(英文)
Stroke of insight: Jill Bolte Taylor on TED.com