GivingTreeの雑記帳 [はてな版]

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(総論編)尖閣ビデオ流出問題を考える:フクザツに見えることをカンタンに切り分けてみる―ある試み

世間の議論は問題をフクザツにしている?カンタンな解はあるのか

「感想編」では、個別解を展開した宮本さんの論に対する感想をまとまりなく述べてみた。
ではこれらの感想を短くまとめてみるとどうなるか。総論の中身が見えてくると思う。

まずは毎度、宮本さんが示した5つの論点のおさらい。

フクザツに見える問題を個別に解する、宮本さん流の5つの論点:
  1. ビデオ自体の公開の是非と政府の対応
  2. 「秘密」では無いといえ漏洩そのものの問題
  3. 海保内部の情報管理の問題
  4. 軍人である船長釈放の問題
  5. 当事国との関係の問題。 

宮本さんの個別解に対する感想の概略をまとめみた。
これを元に総論を述べると、まとまった形の一つの論になる筈だ。

個別の感想の概略

  1. ビデオ自体の公開の是非と政府の対応:ビデオは当初、研修に利用されていたのであり。政府は国民に公開することは目的の内に入っていなかったと思われる。政府は一貫してビデオの一般公開に慎重な姿勢を見せてきた。
  2. 「秘密」では無いといえ漏洩そのものの問題:内規と法律上の問題でそれぞれ処分が異なるのは当然のこと。保安官は手書きのメモで、自らの行為が国家公務員法違反にはならないと計算している。同時に、職を失う覚悟はしていることから、内規に触れる行動を自らが働いたことは十分承知していたのだろうと思われる。
  3. 海保内部の情報管理の問題:問題は秘密指定を受けた後の対処で、海保側はここで情報管理を徹底しなければならなかった。これが十分なされていなかった場合は、規則およびシステム運用の見直しが必要である。ただし現時点でシステムや規則に瑕疵があったかなどは判断できない。
  4. 軍人である船長釈放の問題:ネット上に情報が氾濫しており、ことの真偽は確認しがたい。したがって確定的なことは何もいえない。政府の対応については、起訴するに不十分であるとして処分保留を決定した。日中刑事共助条約上、締約国側の公式な請求がなければ条約の履行義務は生じないため、訴追しない可能性がある。情報漏洩者の保安官を逮捕するか否かの判断は別事由によるもので、あくまで国家公務員法違反に類する行為であるかの厳格な判断によるものと思われる。
  5. 当事国との関係の問題:中国は、戦後間もなくから国連の安保理常任理事国を務め、欧米列強と肩を並べて国際社会の安全と平和に対する難しい判断を行ってきた国家である。一方日本政府は、日米関係と国連中心主義を外交の主軸に据え、安保理では国連史上最多で非常任理事国に当選するも、その中で果たしてきた役割は微々たるもの。日本政府もそうした自覚を持って、中国という大国と接している。歴史的確執があるのはお互い様。だが、どうにか知恵を出し合って解決しなければ将来の互恵的経済関係も立ちゆかない。米国との関係も絡む。対応については、国論をまとめるのは政府・与党の手腕次第だが期待薄だろう。

総論

衝突ビデオの取り扱いに関して日本政府は、一貫して慎重な姿勢を見せてきた。国交省通達により情報の秘密指定を行ったのは10月18日だが、それ以前からも国会および一般の公開については応じず、慎重姿勢を崩さなかった。ただし、中央の統制および政府各省内での情報管理が甘く、通達後これが十分に守られたかどうかの検証は十分になされていない。また限定的とはいえ、11月1日に国会内でビデオの一部を上映したのは事実であり、それにより情報の秘密性が薄れたと判断されても致し方ないだろう。

10月18日以降、さらに国会での一部上映後に漏洩が計画的に行われたことは、被疑者の証言などから分かっている。しかし国会などで一部公開され厳密な定義での「秘密」情報ではなくなったことから、被疑者の行動は刑法に違反する行為ではないと検察は判断したと見られる。ただし、国交省通達後の内規および海保自体の情報取り扱いの内規に対する違反行為である可能性は、被疑者も考察していたとするメモの存在があるため、内規違反を承知での行動であることは、今後の処分上検討しなければならないだろう。海保側は、内規を破られた責任とともに、内規を破ることのできる程度の情報の保全を行ったことについて検証を行い、責任の所在を明確にすべきである。

漏洩者探しの事前に行われた中国漁船船長の逮捕・釈放は、司法の判断に基づくものであるということであるが、動画示す映像からは、逮捕・立件するに十分な根拠がなかったという主張には疑問が残る。ただしこれも、逮捕に至るまでの全容が公開されていないため推測の域を出ない。船長自身が軍人であるだとか、軍の艦艇であったかどうかも推測の域を出ず、これらの情報は海保側が当然把握しているものと思われるため、本件が捜査案件でなくなった時点で、ビデオ全体を含め情報の全面公開を求めるのは、国民の知る権利の行使として当然であると思われる。

ただし、日中間でビデオの取り扱いに関する何らかの約束があるのであれば、政府は二国間の公約としてこれを反故にはできない。それは国際社会の暗黙の理解に対する信頼を損ねることになり、米国ほか同盟国との信頼関係にも影響する。勿論、日本側が要請すれば、中国側の日中刑事共助条約上の義務としてこれを拒否できない。ここは、国民の知る権利と国家としての外交上の利益を天秤にかけた上で、政府に冷徹な判断が求められるところだろう。

だが、国家の政治的判断により超法規的措置を優先するばかりでは法治主義の根幹が崩れる。そのような対応をする場合は明確な説明責任が求められることを、政府首脳は十分に自覚すべきである。

以上