GivingTreeの雑記帳 [はてな版]

seeking for my another sky─それは、この世界そのものだと気付いた

2012.07.06首相官邸前デモ祈念コラム:続・日本に原発を管理する資格はない~国会事故調報告まとめ:概要と評価~

イメージ 1
2012年7月5日、 国会東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 (国会事故調)が最終報告書をまとめた。2011年12月8日「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法」に基づき設置された国会事故調は、報告書をまとめるまでの6か月の期間に、延べ19回委員会を開催。法令に基づく文書の提出請求権を13度行使して情報収集に当たった。法令上、国政調査権の発動権限も有していたが、必要とされる参考人等全てから協力を得られたため、権限を発動することには至らなかった。

国会事故調は、両院の議員運営委員会が合意した「設置の基本的考え」に基づき、情報公開を徹底して全てを公開で行い、その過程・結果・報告に至るまでの全てを常に公表してきた。2012年7月5日にまとめられた 最終報告書では、11の結論が導き出され、これらに対する7の提言が発せられた。
以下は、最終報告書(『要約』『ダイジェスト版』)に基づきその調査の概要、結論と提言、及び個人的評価をまとめたものである。但し、必ずしも『要約』及び『ダイジェスト版』あるいは『本編』の順序通りには記載していない。

Ⅰ. 調査の概要

国会事故調が行った調査の概要は次のとおり。
  • 延べ1167 人(900 時間)を超えるヒアリングを実施
  • 各関連発電所に対し、9回の視察を実施
  • 被災住民に対し、3 回タウンミーティングを開催、400 人超に対するヒアリングを実施
  • 被災地である12 市町村を訪問し、ヒアリングを実施
  • 「被災住民アンケート」を実施し、1 万633 人の回答を得た
  • 福島第一原発において作業する従業員アンケートを実施し、2,415人の回答を得た
  • 海外調査を3回実施し、報告をまとめた
  • 委員会で38人に対し、参考人招致を行った
Ⅱ. 結論と提言

これら調査の結果まとめられた国会事故調の結論と提言は次の通り。

■11の結論
  1. 【事故の根本的原因】 歴代の規制当局と東電との関係について、「規制する立場とされる立場が『逆転関係』となることによる原子力安全についての監視・監督機能の崩壊」が起きた点に求められると認識する。何度も事前に対策を立てるチャンスがあったことに鑑みれば、今回の事故は「自然災害」ではなくあきらかに「人災」であると結論(提言1に対応)。
  2. 【緊急対応時の問題】 事故の進展を止められなかった、あるいは被害を最小化できなかった最大の原因「官邸及び規制当局を含めた危機管理体制が機能しなかったこと」、そして「緊急時対応において事業者の責任、政府の責任の境界が曖昧であったこと」にあると結論(提言2に対応)。
  3. 【被害拡大の要因】 避難指示が住民に的確に伝わらなかった点について、「これまでの規制当局の原子力防災対策への怠慢と、当時の官邸、規制当局の危機管理意識の低さが、今回の住民避難の混乱の根底にあり、住民の健康と安全に関して責任を持つべき官邸及び規制当局の危機管理体制は機能しなかった」と結論(提言2に対応)。
  4. 【住民の被害状況】 「被災地の住民にとって事故の状況は続いている。放射線被ばくによる健康問題、家族、生活基盤の崩壊、そして広大な土地の環境汚染問題は深刻である。いまだに被災者住民の避難生活は続き、必要な除染、あるいは復興の道筋も見えていない。先の見えない避難所生活など現在も多くの人が心身ともに苦難の生活を強いられている」と認識。また、その理由として「政府、規制当局の住民の健康と安全を守る意思の欠如と健康を守る対策の遅れ、被害を受けた住民の生活基盤回復の対応の遅れ、さらには受け手の視点を考えない情報公表にある」と結論(提言3に対応)。
  5. 【運転上の原因】 「過酷事故に対する十分な準備、レベルの高い知識と訓練、機材の点検がなされ、また、緊急性について運転員・作業員に対する時間的要件の具体的な指示ができる準備があれば、より効果的な事後対応ができた可能性は否定できない。すなわち、東電の組織的な問題である」と認識(提言4 に対応)。
  6. 【事業者】 「規制された以上の安全対策を行わず、常により高い安全を目指す姿勢に欠け、また、緊急時に、発電所の事故対応の支援ができない現場軽視の東京電力経営陣の姿勢は、原子力を扱う事業者としての資格があるのか」との疑問を呈す(提言4に対応)。
  7. 【規制当局】 「規制当局は組織の形態あるいは位置付けを変えるだけではなく、その実態の抜本的な転換を行わない限り、国民の安全は守られない。国際的な安全基準に背を向ける内向きの態度を改め、国際社会から信頼される規制機関への脱皮が必要である。また今回の事故を契機に、変化に対応し継続的に自己改革を続けていく姿勢が必要である」と結論(提言5に対応)。
  8. 【問題解決に向けて】 事故原因を個々人の資質、能力の問題に帰結させるのではなく、規制される側とする側の「逆転関係」を形成した真因である「組織的、制度的問題」がこのような「人災」を引き起こしたと考える。この根本原因の解決なくして、単に人を入れ替え、あるいは組織の名称を変えるだけでは、再発防止は不可能であると結論(提言4、5 及び6 に対応)。
  9. 【法規制】 原子力法規制は、その目的、法体系を含めた法規制全般について、抜本的に見直す必要がある。かかる見直しに当たっては、世界の最新の技術的知見等を反映し、この反映を担保するための仕組みを構築するべきである」と結論付けた(提言6に対応)。
  10. 【事故の直接的原因】 「安全上重要な機器の地震による損傷はないとは確定的には言えない」、特に「1号機においては小規模のLOCA が起きた可能性を否定できない」との結論に達した。しかし未解明な部分が残っており、これについて引き続き第三者による検証が行われることを期待する(提言7に対応)。
  11. 【認識の共有化】 「事故は継続しており、被災後の福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という)の建物と設備の脆弱性及び被害を受けた住民への対応は急務である」と認識する。また「この事故報告が提出されることで、事故が過去のものとされてしまうこと」に強い危惧を覚える。日本全体、そして世界に大きな影響を与え、今なお続いているこの事故は、今後も独立した第三者によって継続して厳しく監視、検証されるべき(提言7に対応)。

■7の提言
  1. 【規制当局に対する国会の監視 】 国民の健康と安全を守るために、規制当局を監視する目的で、国会に原子力に係る問題に関する常設の委員会等を設置する。
  2. 【政府の危機管理体制の見直し 】 緊急時の政府、自治体、及び事業者の役割と責任を明らかにすることを含め、政府の危機管理体制に関係する制度についての抜本的な見直しを行う。
  3. 【被災住民に対する政府の対応 】 被災地の環境を長期的・継続的にモニターしながら、住民の健康と安全を守り、生活基盤を回復するため、政府の責任において以下の対応を早急に取る必要がある。
  4. 【電気事業者の監視 】 東電は、電気事業者として経産省との密接な関係を基に、電事連を介して、保安院等の規制当局の意思決定過程に干渉してきた。国会は、提言1に示した規制機関の監視・監督に加えて、事業者が規制当局に不当な圧力をかけることのないように厳しく監視する必要がある。(略)
  5. 【新しい規制組織の要件 】 規制組織は、今回の事故を契機に、国民の健康と安全を最優先とし、常に安全の向上に向けて自ら変革を続けていく組織になるよう抜本的な転換を図る。(略)
  6. 原子力法規制の見直し 】 原子力法規制については、以下を含め、抜本的に見直す。(略)
  7. 【独立調査委員会の活用 】 未解明部分の事故原因の究明、事故の収束に向けたプロセス、被害の拡大防止、本報告で今回は扱わなかった廃炉の道筋や、使用済み核燃料問題等、国民生活に重大な影響のあるテーマについて調査審議するために、国会に、原子力事業者及び行政機関から独立した、民間中心の専門家からなる第三者機関として(原子力臨時調査委員会〈仮称〉)を設置する。また国会がこのような独立した調査委員会を課題別に立ち上げられる仕組みとし、これまでの発想に拘泥せず、引き続き調査、検討を行う。
Ⅲ. 個人的評価

過去半年のうちに国会事故調が行ってきた「調査」の内容は、与えられた期間、資源、権限の中で行われたきたものとしては十分に評価できる内容と考える。7つの「提言」を導くに至った11の「結論」についても、まさにこの国会事故調報告書でもたびたび言及される「規制の虜」(規制当局が事業者の「虜」となって被規制産業である事業者の利益最大化に傾注する状況)の病巣をえぐりだし、その根本的治癒を図ろうとするものであると評価できる。しかし、原子力を推進する議員が多数派を占める現国会において、国会内での改革を重視した形の①常設委員会の設置や、②法規制・③規制組織の要件・④制度の抜本的見直し、⑤事業者の監視、さらには⑥被災住民への対応といったことが、果たして政策として、あるいは制度として立法化され、実施される保証があるのだろうか?

今回活躍した、独立調査委員会のような存在、⑦第三者機関としての原子力臨時調査委員会(仮称)は、「規制の虜」の円の中にある国会とは独立した存在なのだから、期待したいと思う。だが、かといって、国会内の①~⑥の取り組みが機能不全に陥る時にいち第三者機関にそれらを取り扱う権限を与えるわけにもいかないし、いち機関で取り扱うには作業負荷や責任範囲が大きすぎ、またそのマンデートもこの提言には定められていない。

つまり、7の提言のうち6つは、国会でこれら提言を十分に推進する下地があって初めて機能する。仮に、現国会がこれら提言を全て、あるいは部分的に受け入れて、提言が求めるように「実行計画」を策定しこれが採択、施行されたとしても、立法作業の過程で「規制の虜」の状況が再発し、穴だらけの法制・規制・監視になってしまう可能性はないだろうか?現に、それが過去40年行われてきた原子力行政や国会監視の姿ではなかったのか?

国会に関連する6提言を実施する上で必要不可欠になるのは人材の刷新である。これは奇しくも、事故調が行ったヒアリング対象者の評価に現れている。「結論8」において、国会事故調は結論の前段としてこう述べている。
「本事故の根源的原因は「人災」であるが、この「人災」を特定個人の過ちとして処理してしまう限り、問題の本質の解決策とはならず、失った国民の信頼回復は実現できない。これらの背後にあるのは、自らの行動を正当化し、責任回避を最優先に記録を残さない不透明な組織、制度、さらにはそれらを許容する法的な枠組みであったまた関係者に共通していたのは、およそ原子力を扱う者に許されない無知と慢心であり、世界の潮流を無視し、国民の安全を最優先とせず、組織の利益を最優先とする組織依存のマインドセット(思いこみ、常識)であった。」
事故調はこの前段の下、「事故原因を個々人の資質、能力の問題に帰結させるのではなく、規制される側とする側の「逆転関係」を形成した真因である「組織的、制度的問題」がこのような「人災」を引き起こしたと考える」とし、その根本原因の解決を提言している。だが、その根本原因こそがやはり人質(じんしつ)であり、その解決となるのは人材の刷新であることは明らかだろう。しかもこの解決は、規制当局だけでなく、これを監視する役割を負う国会議員に対しても行われる必要があるということだ。でなければ、「規制の虜」の輪は閉じない。

私はこの最終報告書を高く評価する。一方で、この報告書の提言を実現するには人質の刷新が不可欠であると、個人的に結論付ける。国会の人質を刷新するということは、つまり選挙である。総選挙を行い、この期に及んでもなお報告書が指摘するような「マインドセット」を持ち続ける国会議員を立法府から一掃し、その上で行政上の改革が行われなければ、この素晴らしい提言は全く生かされないであろうと確信する。

以上が国会事故最終報告に対する私の個人的な評価である。

2012年7月6日
脱原発社会の実現を再び祈念して