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外交:CRS米議会報告書 第二章「日本外交と日本関係」の報道箇所に関する読書メモ(完全版)

以下は、国内外の報道でとくに問題視されていると思われる議会報告書の本編の一部、「第二章 日本外交と日本関係」の中から、「序論」(※ただし原題なし)「1.安倍と歴史認識問題」の第1部と第2部「従軍慰安婦問題」迄の同時翻訳読書メモツイートを文章形式に起こし直したものである。起こし直す段階で、文字数制限のあるツイートとは異なる内容に一部修正されている。原文は文字数制限を超える分量なのでこの際全文は記載しないが、とくに報道で触れられている箇所については原文を日英併記し、太字で強調してある。国内外における報道では、この一部の箇所について、その文意は大まかに伝えながらも、正確な文脈を伝えようとする努力がなされていない。そこで、この問題箇所について翻訳読書メモを作成した。

〔原文データ〕
 【原文】CRS報告書『日米関係をめぐる論点』(2013年5月1日), pp.5~7.
"Japan’s Foreign Policy and U.S.-Japan Relations", Japan-U.S. Relations: Issues for Congress,
Congressional Research Service, (May 1, 2013).
【執筆】Emma Chanlett-Avery, Specialist in Asian Affairs.
エマ・チャンレット=エイヴリー外交・国防・通商部アジア問題担当分析官


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第二章 日本外交と日米関係

序論
 
日米関係は広範かつ、根の深い、安定した関係であるが、日本の政治的硬直によりその真価を発揮できずにいる。2006年以降、日本ではほぼ毎年首相が代わり続けている。日本のこの政治的傾向は合衆国にとって、長期的視野に基づく計画を共同で行うことが困難であることを示し、オバマ政権が掲げるアジアの再均衡を目指す『太平洋の基軸』(Pacific Pivot)戦略において信頼できるパートナーが得難い現状を示しているといえる。日米両国は、台頭する中国や北朝鮮の脅威に対応すべく関係を維持している。実務レベルでの協力は堅牢で、中国や北朝鮮の挑発行為により連携は強化されたとすらいえる。沖縄問題など困難な諸課題は依然残るが、ミサイル防衛などの安全保障分野では自民・民主両政府ともに進展があった。2011年3月に行われた日米共同の災害対処は、両国にとって同盟の根源的な強さの明瞭な証となった。
 
先行きが不透明なのは、安倍首相がこの関係の舵取り役としてその役割を適切に果たし得るかだ。
 
It remains uncertain how Prime Minister Abe will fare as a steward of the relationship.
 
安倍は、日米同盟の強力な支持者であり、合衆国の利益に適った安全保障戦略をいくつも打ち出している。安倍は、民主的な友好国との関係を強化しており、オーストラリアやインド等と安全保障上の関係も構築しようとしている。 
 
しかし一方で、合衆国の利益を損なう恐れのある周辺国との不和が生じるような問題に関し、安倍が外交課題の舵取りをうまく出来るのかという点については疑問が残る(以降の項で詳述)。
 
On the other hand, Abe faces questions about his ability to steer foreign policy away from divisive regional issues that could hurt U.S. interests. (See section below for discussion.)
 
さらに、日本国内の政治的分断は、合衆国が優先事項として掲げる環太平洋戦略的経済連携協定TPPの諸条件への合意(「経済問題」の項で詳述)や、より深化した軍事協力の実現(「同盟問題」の項で詳述)を難しくしている。首相就任から4か月が経過した安倍の支持率は依然高い。だが、多くの政策課題に関する決定は2013年7月の参議院選挙の結果に左右されるであろう。
 
安倍と歴史認識問題
 
 約1年の任期で終えた2006~2007年の任期中、安倍は国粋主義的な美辞麗句や、国防や安全保障に間してより勇ましい姿勢をとることで知られていた。その一つである平和憲法の改正、すなわち集団的自衛権の行使を可能にすることは、日米の軍事協力を高めたいと考える米国政府関係者の間では歓迎されていた。しかし、その他の言動で安倍は、大日本帝国によるアジア諸国への迫害や侵略が行われたとする通説を拒絶するという歴史修正主義的な観点に与している。安倍は、日本が植民地支配の宗主国又は戦時中の大国として不公平に批難されていると主張するグループと関わりを持っていた。この『日本会議』と呼ばれるグループは、日本が東アジアの解放者であり、極東軍事裁判は不法な裁判であり、南京虐殺は誇張もしくは捏造であると主張することで知られている。歴史問題は長きに渡り日本と周辺国、とくに日本の戦時中の占領行為や好戦性に憤る中国と韓国との関係を歪めてきた。国粋主義的なことで知られる政治家や、時により極端に国粋主義的な主張を行う政治家を任用していることからも、安倍の閣僚人事にはこれらの歴史観が反映されているとみられる。
 
Abe’s selections for his Cabinet appear to reflect these views, as he chose a number of politicians well-known for advocating nationalist, and in some cases ultra-nationalist views.
 
前政権の民主党は、日本の過去についてより互譲的な視点を持ち、韓国や中国との歴史問題の傷を癒やそうと試みた。 朝鮮半島併合百周年に当たる2010年8月、時の首相の菅直人は植民地時代の韓国人への扱いを詫びる談話を発表し、韓国から収奪された歴史的文献や伝統工芸品を返還する旨を申し出た。民主党の指導者は政権を奪われるまで、戦死者と共にA級戦犯が数人祀られている靖国神社の参拝を控えた。2000年代のはじめ、自民党小泉純一郎首相がこの神社を参拝した時、日中韓関係は深刻に拗れた。2013年4月、現閣僚3名を含む大勢の国会議員が参拝を行い、中韓の強い抗議を呼んだ。安倍が靖国を参拝したのは、自民党総裁選出後、首相選出前の2012年10月が最後だった。多くの識者の間では、安倍の政権復帰は周辺国との問題を再燃させ、地域的な貿易統合の動きを乱し、合衆国と同盟国との安全保障上の関係を損ない、中国との関係をさらに悪化させる恐れがあると懸念されている。
 
Many analysts say that Abe’s re-ascension to the premiership risks inflaming regional relations, which could disrupt regional trade integration, threaten security cooperation among U.S. allies, and further exacerbate already tense relations with China.
 
安倍は、国会で第三勢力となった極端に国粋主義的な新勢力「日本維新の会」の圧力にさらされている。一方で、安倍は前期首相時代に中韓との関係を修復しており、一部の識者の間では実用主義的な政治家と評価されている。首相就任以来、安倍は野党時代に行った、尖閣諸島文民を配置することや、韓国に実行支配されている独島・竹島に対する日本の主権を主張するための「竹島の日」の設定などを訴える一連の主張を繰り返していない。また中国との関係はこれまで以上に悪化しているが、韓国の新政府には特使を送りこみ、関係が深刻に悪化するのは避けられる見通しを示した。
 
 
いわゆる“従軍慰安婦”(1930~40年代の間に日本が占領・植民地化した複数のアジア諸国で日本帝国軍が使用した性奴隷)に関する安倍の発言は、周辺国、及び2007年の下院決議により批難の対象となっている。安倍は政府として、1993年に発表された慰安婦問題について公式に謝罪する談話を見直す可能性を示唆しており、これは確実に、日本と韓国その他の国との関係を悪化させるとみられる。かつて安倍は、「慰安婦たちは軍に強制されていない」とする、日本の多くの右派が行う主張を支持していた。
 
首相を務めた2006~07年の間、安倍は、被害者への謝罪と軍の責任を認める内容で時の官房長官河野洋平が発表した公式な声明、1993年の“河野談話”の有効性について疑問を呈した。しかし、下院議会(合衆国第110議会)において、日本政府に対し、“若い女性を軍事売春に強制したことを公式に認め、謝罪し、かつ、歴史的責任を認めること”を求める決議121が検討されると、安倍は主張を和らげ、談話を踏襲する姿勢を見せた。その後、下院は同決議を圧倒的多数で可決した。当時の官房副長官下村博文は談話を見直す動きを主導している。下村は、今次内閣で文部科学大臣に任命されている。
 
このいわゆる“従軍慰安婦”の問題は、在米の韓国系アメリカ人の活動家グループにより合衆国でその問題が広く認識されるようになった。これらのグループの活動は、被害者を悼む記念碑の建立や、ニューヨーク州上院議会における同問題に関する決議の採択、そしてニューヨーク市のクイーンズ区の道路の名称を被害者に捧げることを促すことに成功した。また報道によれば、ヒラリー・クリントン国務長官国務省に対し、“従軍慰安婦”という歪曲表現ではなく“性奴隷”という呼称を用いるよう指示したという[*]。 
 
In addition, former Secretary of State Hillary Clinton reportedly instructed the State Department to refer to the women as "sex slaves" rather than the euphemistic term "comfort women."
 
[*]朝鮮日報. “‘Comfort Women’ Were Sex Slaves,” 2012年7月13日.   (要定期購読)
 
以上
 


【免責事項】この読書メモは「完全版」ではあっても「翻訳」ではありません。あくまで読書しながら報告書の内容を咀嚼して書き上げた「メモ」の集大成です。一語一句が報告書通りではないので、その旨予めご了承ください。但し、国内外の報道がとくに取り上げている箇所(太字箇所)についてはピンポイントで正確な翻訳を心がけている積もりです。