GivingTreeの雑記帳 [はてな版]

seeking for my another sky─それは、この世界そのものだと気付いた

外交:北のミサイル発射に絡む日本政府の思惑(メモ)

改憲防衛庁の省昇格は目前にある問題の解決のためではない。
改憲再軍備は、北に対抗するためのものでもない。

今回の事件で北が日本をまったく度外視しているように、
日本側も防衛問題として北にその焦点を当てているのではない。

すべて、ただ、そう見せかけているだけだ。

分析メモで示しているように、今回の事件は各国の思惑によりそれぞれにいいように利用されている。北はそうとは気付いていないだろうが、日米はこの件に関しては完全に一枚岩で、共通の目標を短期間で達成するために、本件を最大限に利用しようとしている。その共通の目標が、省昇格法案の可決と改憲に向けての勢いを得ることだ。

日米にとって、北は現実的にはそれほどの脅威ではない。拉致・不法ビジネスなど、そういう意味では治安上の脅威ではあるかもしれないが、少なくとも軍事的脅威ではない。それは、双方が北に関する正確な情報を把握しているからだ。

日米双方からメディア向けに公開される情報はごく限られたもので、すべてが公開されているわけではない。国家安全保障上の情報は米軍が100を把握し、自衛隊が80、政府が60、メディアが40、一般が30と、情報の精度・完全性はこの情報階層に従って劣化していく。このたび政府(内閣官房防衛庁)を通じて公表された情報は、自衛隊から下ろされた元の情報の6割の情報に過ぎない。その6割がさらにメディアの自主規制あるいは報道協定によって4割にまで劣化し、お茶の間に届けられる情報は実際の情報の3割程度にまで劣化したものとなる。これは日本に限ったことではなく、どの先進国の民主社会も同じことだ。

ただ各国の場合は、自国の軍が100の情報を掌握しているということだ。つまり、政府が80、メディアが60、一般が40と、一般が知りえる情報が日本よりも多くなっている。自前の軍を持たないことの弊害はこういうところに現れる。

我が自衛隊より多くの初段階情報を把握している米軍は、戦略上すべての情報を自衛隊と共有するわけではない。同盟国といっても、完全な情報共有は実際ありえない。したがって、自衛隊が把握した8割の情報のうち、軍事上の理由で開示されなかった情報と、国家安全保障上の理由で政府に開示された情報(6割)のうち、報道発表されたのはさらに情報を削られた4割程度ということになる。その、元の情報の半分以下の情報をもとに、国民はこうして議論しているのだ。

軍事戦略上の常識として、軍はその能力のすべてを公開しない。索敵能力についても、探知能力についても、メディアを通じて政府が発表する数値はそのまま日本の情報収集能力や探知能力の限界を表すものではない。しかし国民は、政府が行う公式発表をいとも簡単に鵜呑みにし、それがわが国の限界なのだと錯覚する。そしてここでメディアが、政府の意図を実現する媒介の役目も果たす。

本件についてメディアは政府の対応の動きをつぶさに追っていたが、やはり目立ったのは初動の遅れを指摘する声だった。中距離では3分、長距離では6分かかる弾道ミサイルに対応するのに、政府は緊急対策委員会の設置に20分かかったというものだった。実際のところは、委員会の設置に20分しかかからなかったところで、そこから先の意思決定の時間が多くかかるならそれはそれで“即応”してることとは程遠くなる。算数遊びのように、6分かかるミサイルへの対応に20分もかかるなんて、と表面的な問題を指摘していることは、何も意味をなさない。

しかしメディアのこの報道を見て一般の人々は単純に、「ミサイルが到着するまでに何の対応もできていないじゃないか」と解釈してしまい、メディアが指摘する「初動の遅れ」をそのまま“現実の問題”として錯覚してしまう。しかし現実はどうか。米軍の早期警戒網から自衛隊に8割の情報が行き渡るまで、それほどのタイムラグがあるのだろうか。更に自衛隊の中でその情報を精査して文民政府側に伝えるまでのタイムラグも、それほど大きなものなのだろうか。

考えてみてほしい。

元々、ミサイルに対する警戒と初動までの時間がそれほど長くかかるものならば、わが国の防衛は始めから成り立っていないことになるのではないか。なぜなら軍事的脅威に対する即応体制は、武力事態法の成立により体系化され、自衛隊法の改正により運用もされているはずだからだ。それでも、一杯のコーヒーを待っている間に届いてしまうミサイルについて「協議する」時間を設けてそれに20分かかってしまうことを問題にするのはおかしい。実際的な問題は米軍→自衛隊の情報の流れと確度とスピードにあり、政府の対応はあくまで自衛隊の警戒情報を得てからになるからだ。つまり、即応の不備の原因は自衛隊側(防衛庁)にあり、政府側にはないことになる。しかしここで、「情報の階層」によりいかに限られた情報しか政府側に届けられていないかを考慮に入れなければならない。ここに、錯覚を解く鍵がある。

米軍が100として80の情報を把握している自衛隊は、それだけの情報では独自に動けないのだろうか。否、動けるのである。それは迎撃などで対応する意味の「動き」ではない。ミサイルの発射地点、積載燃料、航続距離、進路などの正確な情報を把握していれば、「動き」は最小限で済み、政府に伝達される情報も、元の情報の6割としても「差し迫った脅威はないので冷静に対応を協議していただきたい」で済むのである。

防衛における初動とは、相手方の動きがあってからするものではなく、相手方の動きが実行の秒読み段階に入った段階ですでに動いていることをいう。したがって、数ヶ月前からテポドン発射の情報をマスコミにリークしていた時点で、すでに即応体制は万全を期していたと見るのが妥当である。では、その即応体制化でなぜ文民の動きは「目に見える」対応をしているように見えなかったか。

必要なかったからである。


政府がメディアを通じて発表していない情報がまさにこれである。

「わが国は正確な情報を把握しており、ミサイルが我が領海内に着弾したとしても影響が無いと判断したから、最小限の対応で済ませた」

と、政府は発表すべきなのである。だが、それをしない。なぜかと考え分析してみると、以下の分析が成り立つ。つまり、理由の1つは、北に日米の真の防衛能力を悟らせないためだ。そして、二つ目の理由は、最初に述べた当初の目的に少しでも近づくためである。

政府は実は確実な情報を掴んでいる:

1)対米軍:ミサイルが実験用であり、米軍経由でその飛行径路、航続距離までを正確に把握しているので、米軍と歩調を合わせ冷静に対応している。
2)対北:上記の情報を把握していることを北に気取られると、相手を刺激しかねないので知らないフリをしている(が、同時にパニックも煽りたてないし、冷静な対応を心がけ、国民を不安にしないように努めている)
3)対国民:政府が情報を完全に把握しているとしても、「それを把握しているのならもっと強硬に対処しろ」という声が国民の中から出て対応を迫られないように、わからないフリをしている。

有能を装う政府は度し難いが、無能を装う政府はもっとタチが悪い。


無能を装う政府の口車に乗って、「憲法改正賛成」「防衛省昇格」賛成、「ミサイル防衛推進賛成」─こうした肯定的な世論が巻き起これば、日米両政府は互いの目的をより容易に達成するための土壌(世論の支持)を、国民への説得などの労を介さずに作り上げることができるというわけだ。

北への即応体制の問題など、始めから国防上の課題として存在するわけではない。

それは、国民がそう“思い込まされている”に過ぎない。


言っている矢先から、あの朝日までこんな論調になっていた。