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外交:北のミサイル発射に絡む日本の対応を韓国が批判した理由(メモ)

国内新聞各紙の引用

(読売)日本のミサイル対応は「大騒ぎ」…韓国大統領府が批判
・「日本のように明け方から大騒ぎしなければならない理由はない」
・「テポドン発射の可能性は周知の事実だった」
・非常態勢を発令しなかったのは、ミサイルが「特定のだれかを狙ったものではなかったためだ」
・「朝鮮半島の緊張を高めたり、南北関係を悪化させたりしても良いことはなく、核問題やミサイル問題の解決に何の助けにもならない」
・非難決議案は「北朝鮮のミサイル拡散計画を防止する効果があるかどうか判断が難しい」

(朝日)「日本は騒ぎ過ぎ」 ミサイル発射で韓国大統領府HP
・「強いて日本のように未明から大騒ぎする必要はない」
・国連での制裁決議案は「北朝鮮のミサイル拡散計画の防止に効果があるのか判断が難しい」
・「ミサイル発射が我が国の安保レベルの危機だったのだろうか」
・「(韓国が)事件を軍備強化の名分に利用することもない」

(産経)韓国「日本は騒ぎ過ぎ」 大統領官邸が声明
・「無理に日本のように未明から大騒ぎする必要はない」
・韓国政府の「落ち着いた」対応は、国民を不安にさせないようにとの大統領の意思によるもの
・「(ミサイル発射は)政治的な事件にすぎず、安保上の非常事態に至るものではない
・「大騒ぎで国民を不安にさせてはならず、大きな声を上げずに少しずつ対応している」
・制裁決議案に「ミサイル計画を食い止める効果があるのか、判断が難しい」

(毎日)北朝鮮ミサイル:日本は騒ぎ過ぎ 韓国大統領官邸が声明
・「無理に日本のように未明から大騒ぎする必要はない」
・韓国政府の「落ち着いた」対応は、国民を不安にさせないようにとの大統領の意思によるもの、と説明
・過去に独裁政権が南北関係を緊張させ政治的に利用してきた歴史から抜け出さなければならない
・「(ミサイル発射は)政治的な事件にすぎず、安保上の非常事態に至るものではない」
・韓国政府は「大騒ぎで国民を不安にさせてはならず、大きな声を上げずに少しずつ対応している」
・制裁決議案は「ミサイル計画を食い止める効果があるのか、判断が難しい」

(日経)(7/10)韓国声明「日本の大騒ぎ、理由ない」・官房長官は「残念」
・「日本のように夜明けから大騒ぎしなければならない理由がない」
・どの国の国防当局も非常態勢を発令しなかった。誰かを狙ったものではなかったからだ」
・ミサイル発射が「わが国の安保上の危機だったのか」と疑問を提起
・「大騒ぎをして国民を不安にさせてはいけない。声を高めずにゆっくり対応する方針は盧武鉉ノ・ムヒョン)大統領の考えだ」
・制裁決議案は「北朝鮮のミサイル拡散計画の防止に効果があるのかどうか判断するのは難しい」

北が行ったこれまでの行動には、一部欧米紙が報じたように問題がある点ない点がある。問題のない点については、たしか英デイリーテレグラフ紙が報じていた。

I. 問題点:
×(a)平壌宣言のミサイル発射モラトリアムを破った
×(b)6カ国協議(国際社会)への影響を考慮しなかった
×(c)発射の事前通告を怠った
×(d)発射後、事前通告がないことなどの不備を認めず謝罪もしなかった

II. 問題でない点:
△(a)ミサイル実験という軍事演習を行うこと(注:平壌宣言無効の姿勢の場合)
△(b)軍事演習を行う権利を国家の主権だと主張すること

圧倒的に問題点のほうが多いが、北が平壌宣言を無効とする場合は、宣言には拘束力がなくあくまで両国の善意により成り立つものであるため、一方的に無効とすることは可能なので、ミサイル実験を行うこと自体はこれは国家主権の一部として認められる行為である。

これら問題点(I)のうち、日本政府が問題としているのは(a)(c)だろう。

だが問題点(a)についていえば、北の拉致問題解決への姿勢が十分とはいえないまでも、交渉のテーブルを核問題が中心の6カ国協議に移してしまっては多勢に無勢で北が交渉に臨まないのも無理はないだろう。これは、本来二国間問題であるはずの拉致問題を自国のみで解決できない日本政府の外交力の欠如から来る問題である。したがって、北が「対話が成り立っていないから平壌宣言での合意は成り立たない」としても、事実上二国間での対話が成り立っていない状態なのだから、北のみがミサイル発射を凍結する義務を負わされるのは道理が通らない。したがって、北が平壌宣言を無視してミサイル発射実験を行ったとしても、致し方がないのではないか、とノムヒョン大統領が判断してもおかしくはない。つまり、平壌宣言という日朝間のみの問題に焦点を置くと、北の主張はあながち間違っていないということになる。

次に問題点(c)の点だが、これは手続き上の問題であり、これを怠った北朝鮮には、国際慣習上も重大な手続き違反があったと指摘されることを免れない。だからこの点について日本政府が問題を指摘するのは当然であり、北は本来はこの件に関しては反論はできないはずだ。

日本政府に限定すると問題点は(a)と(c)}の二点に絞られるが、主権を持ち出した問題でない点(II)(a)と(b)も実は筋が通っている。日本は隣国の領海を侵してまでミサイル実験を行ったりはしないが、かつてはフランスがビキニ諸島で核実験を行って日本の商船が被爆したという事件もあった。他にも核実験やミサイル実験などで他国に迷惑をかけている国は後を絶たないが、北のように事前通告なしで7発も打ち込んでおきながら知らん顔という国際社会のルールを無視した行動をとるような国は稀だろう。つまり、国際的なルールさえ守れば、主権国家が軍事演習を行うことは、たとえ二国間の間に善意の合意がなされていようとも、その宣言に実質的な拘束力がなく、履行義務が伴わないのであれば、その宣言を一方的に無効として、宣言前に自由に行ってきた行動に戻ることは、国際法違反でもなければ非常識な行動でもないのである。それが、「宣言」の持つ力の程度なのだ。


以上の点を考慮すれば、たとえ北に手続き上の不備や宣言を一方的に無効視したという身勝手さがあるとしても、主権国家が軍事演習だと主張すること(これまでどの先進国も行ってきたこと)を、フランスがやれば軍事演習、北がやれば攻撃行為と捉えるのは、ダブルスタンダードというものだろう。

仮にも国交正常化を目指している相手国との交渉下にあるなかで、先方が一方的に両国に対して拘束力を持たない宣言を破棄する行為に出たとしても、それを理由に自国のみならず国際的な制裁措置の発動に踏み切ろうとするのは、たしかに「大騒ぎ」しすぎである感が否めない。本来なら二国間で協議して問題解決に当たるべきところを、にべもなく経済制裁、そして安保理制裁決議工作では、事態の収容を図ることなく相手側を刺激し追い詰めるだけである。

たしかに北は子どもじみた行動ばかりとる国際社会の問題児だが、隣国韓国は一度その国と戦争したことがあるのにも関わらず長い年月を経て、和解に近づいてきた。それでも、互いをけん制することが忘れず、微妙な平和の状態が続いていたわけだ。そのように常に緊張下にある国の指導者にとっては、今回の日本政府の対応は性急で「騒ぎが過ぎる」と捉えられても致し方ないのでないか。

自国のみでは解決できないからとすぐに保護者のいる国連の安保理に話を持っていき、中露の立場を危うくするというのは、今後の日中関係を考えても得策といえる行動ではなかったのではないか。

ここまで話せば、食糧援助の保留という対処を決めておきながらも、必要以上には北を刺激したくないという韓国の微妙な立場がわかってくるだろう。韓国は日本の姿勢を北を擁護するために批判したのではない。実際に日本が騒ぎすぎだから、北と国境を接し常に緊張状態にある国からしても、それは「過剰」だと指摘したまでだ。

端的にいえば、

日本は友好でない国家との友好な関係構築が下手だということだろう。