GivingTreeの雑記帳 [はてな版]

seeking for my another sky─それは、この世界そのものだと気付いた

人権:(訳)米ブッシュ政権における文民の暴走に抗うJAG将校たち

法の正義を希求する者たち


著者:Nat Hentoff
翻訳:GivingTree


2006年9月11日
彼らはほとんど表舞台に現れない。だが米国の陸・海・空そして海兵隊にそれぞれ独立して存在する彼ら軍事法務担当者(Judge Advocate Generals:通称「JAG」)たちは、戦時と平時の両方において、我が米軍が世界のどの国にもひけをとらない順法精神を発揮し、国内法、条約法、憲法、そして軍事司法統一法典(Uniform Code of Military Justice)をいかに守るべきかを勧告する必要不可欠な存在である。しかし2002年以降、彼らJAGの独立性はブッシュ政権によって脅かされるようになった。

軍事法務担当者による独立検察官の必要性は、連邦最高裁でも認められている。1976年のグリア対スポックの裁判では、このような原則が述べられている。
「軍は、その実態および体裁においても、党利党略の手先となって利用されることがあってはならない」
無論、この原則はいずれの党にも適用される。

たとえば、2002年と2003年には、グアンタナモ基地収容所やその他の収容所に拘留されている捕虜の扱いについて、文民の政府高官や法務省の担当官、そしてホワイトハウス関係者らによって判断が行われた。

グアンタナモイラクアブグレイブにおける捕虜虐待は、2006年に連邦最高裁によるブッシュ政権への容赦のない批判へと繋がった。このハマダン裁判で連邦最高裁は、ブッシュ政権に対し、グアンタナモやその他収容所における形ばかりの軍事裁判所の設置(および収容所での不法は尋問)は、国内法である戦争犯罪法とジュネーブ諸条約の両方に違反しているとした。

彼ら軍事法務担当者(JAG将校)は、軍法統一法典の規範を無視するこの一連の文民政府による決定にまったく関与を許されなかった。彼らが関与を許されていれば、アブグレイブや他の収容所での虐待はおそらく起きなかっただろう。ハマダン裁判で連邦最高裁が述べたように、我が国も拘束されるジュネーブ条約の共通第3条において以下のような行為は固く禁じられている。
「いかなる時、またいかなる場合であっても、個人の尊厳に対する侵害行為、とくに捕虜に対する屈辱的で下劣な行為は、その個人が他国の制服を着用している否かに拠らず、また政府がその個人を“敵性戦闘員”と指定しているか否かにも拠らず、同条約によって禁じられている」
今年7月13日、合衆国議会の上院軍事委員会は米軍の海兵隊を含む陸・海・空全軍からJAG将校を公聴会に召喚し、ハマダン裁判の判決を受けて、どのように「拘留者」たちの処遇を変えればよいか勧告を仰いだ。この席上で、元海軍JAG将校のジョン・ヒューストン少将はこう述べた。
ジュネーブ条約共通第3条の枠内で戦わなければ、この戦争を勝つことはできません」
過去4年に渡って彼らJAG将校の独立した勧告を軽視し、無視してきたブッシュ政権によって、テロの戦いにおいて、同盟国をも含む全世界における我が国の道徳的模範としてのリーダーシップは損なわれてしまった。

ゴンザレス司法長官をはじめとするその他の政府関係者たちは、最高裁の判決の網の目を抜けようとしている。彼らは依然として、ジュネーブ条約が禁じる「屈辱的かつ下劣な処遇」に明確に違反するいくつかの尋問方法について、これを保持しようと説得を行い続けているのである。

これについて、明らかに公正さに欠くグアンタナモ軍事法廷や「強制的」な尋問について抗議しようと立ち上がったJAG将校たちが助言を仰いだといわれている国際人権法律家のスコット・ホートン氏は、こう述べている。
「彼らは、“水攻め”や“氷漬け”(捕虜を長時間低温環境に置く尋問方法)、そしてその他の実際に捕虜たちを死においやったとされる苦痛を与える手法を維持するつもりでいる。これは、政権関係者が(戦争犯罪法の適用による)訴追を免れるために政府が編み出した“めくらまし法”なのである」
この「めくらまし法」を作り上げるために、ゴンザレス司法長官によると、政府は「JAGと綿密な協議を行っている」という。しかし、ボストン・グローブ紙のチャーリー・サベージ記者が8月27日の記事で報じたように、実際はブッシュ大統領が指名した法務省の担当官によって新しい処遇方針が策定されている。ブッシュ政権の担当者らがJAG将校らと面会したのは7月28日のただの一度きりで、その後はEメールでやりとりを続けたが8月の第一週にはやりとりが止まったという。

空軍の最高位のJAG将校として退官したノーラン・スクルート元少将は、このように述べている。
「政権側がJAGと表面的な話しかしていないのであれば、それは彼らとのやりとりが形だけで実のないものであったことを表している。すなわち、政権内の誰1人として、JAGを意思決定の過程から外すことの教訓を学んでいなかったということだ」
今年8月26日、ペンシルバニア州のReading Eagle紙の社説に、米国議会に向けた痛恨の指摘が掲載された。
「規則が変わることで拘留者を劣悪な環境に置き屈辱的に扱うことが合法となるようなことがあれば、合衆国政府は他国において拘留される米軍兵士が敬意と尊厳を持って扱われることを求める道徳的根拠を失うだろう」
まったく同じことを、彼らJAG将校は、2002年以来ずっと訴え続けてきているのである。8月30日付けの英紙フィナンシャル・タイムズではスコットランド出身のコラムニストは、記事の中でこのように結んでいる。
「これはアメリカにとっての損失である。公平さや公正さに欠くその姿勢は世界の道徳的模範としての信頼の失墜を意味し、アメリカの影響力を大いに削ぐことになる」
全世界が、合衆国議会を注視している。そして私は、議会がジュネーブ条約の遵守を訴えるのであれば、大統領が伝家の宝刀を抜いて新たな法律をうやむやのうちに消し去らないよう、監視の目を緩めないようにしている。
(了)