GivingTreeの雑記帳 [はてな版]

seeking for my another sky─それは、この世界そのものだと気付いた

緊急指摘:(後編)IWJ翻訳【ブログ記事:TPP交渉、日本の『聖域』は守られない!米通商代表部声明により判明】は、誤った理解と誤訳に基づいている。

補足:外務省の「税関」の表記について

IWJは、IWJ320で日本政府外務省が2013年3月18日まとめた交渉会合の内容(以下、MOFA318)について2つの指摘を行っている。
  1. "customs"を「税関」と訳している。
  2. 用語の登場順序が変えられている。
この一連の指摘について、(1)は上記に詳述した通りである。(2)については、これは上記に詳述した理由に基づいて"customs"が「税関」「税関手続き」あるいは「税関協力」であると理解すれば、日本政府にとって、交渉グループのテーマの一つでもある「税関協力」はさして重要な課題ではないことがその掲載順序に示されていると解釈できる。逆に、日本政府にとっては、これまで行われた議論において、最も重要視しているのが「規制制度間の整合性」であることが暗示されている。

またMOFA318における問題の文では、"customs"は単に「税関」とされているが、これは税関に関連する諸処の分野、すなわち「税関手続き」「税関協力」の総称だと考えれば、妥当な表現であることがわかる。

MOFA318における問題の文:

規制制度間の整合性,電気通信,税関及び開発については良い進展があった。これらの分野の残された作業は,協定を完成する段階において取り扱うこととし,当面は,これらの分野の作業部会は開催されないこととなった。これにより,交渉参加国は,知的財産,競争,環境等といったより困難な分野の問題解決に努力を集中させることが可能となる。

改訳したBAL?S0324におけるUSTR313の当該文:

この進展をもって、税関協力(customs)、通信(telecommunications)、規制の整合性(regulatory coherence)、開発(development)分野を含むいくつかの交渉グループは、今後の会合において法文策定に関する協議を行わず、これらの分野で残った課題については、合意の最終段階に至る交渉ステージにおいて取り上げられることとなる。これにより、TPP参加国は知的財産(intellectual property)、[公的調達における] 競争(competition)、環境(environment)等を含む、最も困難な課題の解決に専念することが可能となる。


最後に


今回の総合的な指摘により、IWJの誤認及び誤訳を指摘することになったが、これはIWJの非を追求するためでなく、むしろその拙速な行為を戒めるための試みである。既存の様々な情報を検証することもなく、一般的な理解の元に自説を展開し拡散することのリスクを分かってほしいがための指摘である。

TPPに間して、世論は真っ二つとはいわずとも割れている。その中で、TPP反対派(私を含む)にとって、今回のIWJの発見と指摘は、有利な論理展開をするための格好な材料だっただろう。しかし、それが誤認・誤訳に基づいてるものとなっては、逆撃を被ることになる。実際、私の今回の指摘は、その逆撃を呼び込むことになるかもしれない。それは承知している。だが、事実と異なることを事実と「報じる」メディアはたとえ市民メディアであろうと放置はできない。また誤りが誤りであることを認めなくては、既成の大手メディアと変わらない。そのための戒めの意味が込められている。

今回の事実の確認により、「税関」に関する議論は一旦終了するが、「関税」に関する議論は引き続き、交渉の中で行われることが判明した。TPP反対派は、この事実を潔く認め、正しい事実認識のもと、USTR313の表明に拠らずに、反対論を再構成しなければならない。

そのための機会として改訳と解説を提供した。そういう心積もりである。

以上、意図の誤解なきようお願いしたい。

2013.03.24 米国オハイオ州にて