GivingTreeの雑記帳 [はてな版]

seeking for my another sky─それは、この世界そのものだと気付いた

外交:(中編)常軌を逸した敵性国家に対する有効な備えとは─総括メモ

北に全面対決の覚悟はあるのか

日米両国による多角的な外交交渉、さらに中国の制止による説得にも関わらず、北朝鮮はミサイルを連発した。一体何のためなのだろうか。日米安保を試すため、アメリカの本音を試すため、というのが俺の持論だったが、メディアや政府はアメリカを交渉の場に引き出すためという。しかしなぜ、日朝間のモラトリアムである平壌宣言に違反する挑発行為を行うことが、アメリカを交渉の場に引き出すことになるのだろうか。

そもそも、アメリカが北と交渉しようとしないのは、北がテロ国家だからとかそういう感情的な理由からではない。アメリカは日本に華を持たせる形で、日本が独自の外交力を駆使して北との国交正常化を成功できるよう(あるいは日本独自で北に対する制裁行動を発動できやすいよう)、敢えて一歩退いた形で関わり、日本に独自外交の花道を残している。これは小泉外交に対する配慮でもあるが、アメリカはもっとしたたかである。そのような善意のみで外交を展開する国ではない。アメリカの対北外交には、世界戦略上、複合的な意図が絡んでいると見られる。その中心には中国に対する思惑があり、少なくとも、次の4つの点が念頭に置かれていると思われる。

(1)北の非常識な行動をテコに中国のアジアでの影響力削減を狙っている
(2)同時に国連安保理では中国を追い詰める強硬姿勢を見せつつ、北さえどうにかすれば中国の権益を保障するというジェスチャーを見せる(ナイジェリア油田や南米での権益のバーターが絡んでくると思われる)
(3)中東アフガン・イラクでの戦費がかさんでいるので北の問題で戦力も外交力も割きたくないのが本音で、単独外交よりは多国間機構(6カ国協議、国連安保理、非公式会合)を有効に活用したい
(4)軍事戦略上の要所として極東の要に日本を位置付けているため、この危機に乗じて日本に軍備拡大の意識を高め、臨時国会での軍備関連法案の採択を目指してもらう

アメリカにとって中国は仮想敵国であると同時に、その市場は経済戦略上欠かすことができない存在である。よって、アメリカの対中外交は、みだりに中国を刺激することなく、中国の国力を徐々に削ぎつつ、だが経済力は温存させ、友好な関係を保ちながら市場の活用を目指すというものであるはずだ。つまり、敵対することはアメリカの本意ではなく、むしろなるべく避けたいことでもある。この側面については、日本の指導部も対中外交を考えるうえで考慮する必要がある。アメリカが期待する中国の影響力の削減に寄与するような外交ならアメリカは歓迎するだろうが、アメリカのテコ入れを必要とするような関係の悪化はアメリカは望んでいないからだ。

では、アメリカが今回の問題で目的としていることは何か。

中国に貸しを作ることである。


この目的を読み違えていたずらに中国を追い詰めることは日本の国益にならない。(参考:東奥日報

北は、おそらくアメリカのこの意図を正確に読み当てている。だからアメリカに中国に対する貸しを作る場を与え、それを活用させようとしている。一方、北は安保理では中国が自国を守ってくれると安心し切っているようだが、この読みは外れるだろう。アメリカが中国に貸しを作りたがっていても、それを読み当てている中国としてはむざむざアメリカに貸しを作るような真似はしたくない。だから自国の総力を上げてでも北の説得を実現し、安保理では独自の力量で議長声明か非難決議のレベルで収めたいと思っている。そうすれば中国は英断を下して北との関係を絶つ方向を選択したことになり、ウイグル問題などでテロ国家と揶揄されている自国の国際的評価を回復できる。北京オリンピックを控えている中国にとって、こうした国際的評価のファクターは重要である。いま欧米との関係をこじらす余裕はない。だが国家としての影響力を削がれるわけにもいかない。まさに中国はジレンマを抱えており、そこをアメリカに突かれているが踏ん張っているのが現状といえるだろう。とにかくアメリカに貸しを作るわけにはいかない。そういう意味で中国はいま国家のメンツをかけた外交を行っているといえるだろう。このことを、アメリカは十分承知な上で、中国の奮闘を期待している。

「中国と米国は北朝鮮問題に関して「共通した目的」を持っている。
中国が非常に苦心し、責任を極めて深刻に受け止めていることは明らかだ。
北朝鮮6カ国協議に同様の重要性を置いている兆候はない」

─ヒル米国務次官補


水面下でこうした米中の高度なせめぎあいが続いていることを知っている北は、当然アメリカの攻撃はないものとタカをくくっている。そもそも、北がアメリカとどうしても交渉したがっているのはアメリカに現体制の存続を確約させたいからだ。だがアメリカが明解な回答を濁し、でも圧力を与え続けているから北は判断力を失い始めている。それくらい、アメリカの経済制裁と外交圧力は功を奏しているのだろう。ここに日本が発動した経済制裁も加われば、北には他のルートで外貨を獲得するしか手段がなくなる。あとはそこを安保理の制裁決議で封じてしまえば、北は息もできないほどの困窮状態に陥ることになる。つまり、今回の日本の経済制裁は北の最後の生命線を絶つものであり、たとえ短期間でもそれを継続することは日本側の胸先三寸にかかっているのだから、生殺与奪権を持たれたも同じ。国家の生存の根幹に関わるものを止められたら、それを「宣戦布告」とみなすのも無理はない。日本もかつて、ABCD包囲網で同様のことを経験し、「宣戦布告」したのだから。